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凍える月~吉之助の恋~
第5章 第二話 【鈴の音】   二
 今ここで視線を逸らしてはいけないと思った。吉之助は知っている。お絹の腹の子の父親がそも誰なのかを知っている。知っていて、口に出さないでいる。それがせめてもの吉之助なりの思いやりなのだろう。
「俺のために泣いてくれるのか」
 吉之助の指がお絹の頬につたい落ちる滴をそっと拭った。吉之助は微笑んだ。
「それだけで十分だ。冥土の何よりの土産になるぜ」
 お絹が握りしめていた吉之助の手が力なく落ちた。
「吉之助―さん?」
 お絹は吉之助の名を呼んだ。
 だが、返事はない。吉之助の瞼は固く閉じたままで、二度と開くことはなかった。
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