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凍える月~吉之助の恋~
第6章 第二話 【鈴の音】  三
「お絹」
 ふと呼びかけられ、お絹は固まった。
 何より懐かしい声。
 思わず泣きそうになるのに耐えた。
 固く閉じた双眸からつうっとひと筋の涙が糸を引いて流れ落ちた。
「お絹、頼むからこっちを向いてくれ」
 それでも、お絹は振り向かなかった。振り向けるはずがない。自分は伊八の傍から勝手にいなくなったのだ。今更、どんな貌で伊八に逢えるというのだろう。
「随分と探したぜ、お絹。お前がいなくなっちまった後、どうやら、お前が身籠もっているらしいって、おさんさんから聞いたんだ」
「―」
 お絹は返す言葉もない。
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