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凍える月~吉之助の恋~
第6章 第二話 【鈴の音】  三
「死ぬ前の吉之助さんは以前とまるで別人のようだったの。二度も生命を助けて貰ったし、もう吉之助さんを恨んではいないわ。でも、信じて貰えないかもしれないけど、私が好きなのは伊八っつぁん一人よ」
 お絹の心からの言葉に、青ざめた伊八の貌に明るさが戻った。
「それなら、一緒に帰ろう。江戸に帰って、もう一度初めからやり直さねえか」
 伊八のひたむきな視線がお絹をとらえた。
 お絹は思わずうつむいた。
「でも、私のお腹には―」
 それ以上は、いかにしても言えなかった。
 そんなお絹を伊八は強く抱きしめる。
「たとえどんなことがあったとしても、お前の生む子なら俺の子に違(ちげ)えねえ」
 そう言い切った。
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