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凍える月~吉之助の恋~
第6章 第二話 【鈴の音】 三
「伊八っつぁん」
お絹の眼に新たな涙が湧いた。
蓮の花の鮮やかさが眼に眩しい。濁り切った池の中から何故、蓮はこのように浄らかな花を咲かせるのだろう。
吉之助の微笑がふと紅い蓮の花に重なった。あの酷薄な笑いではなく、いまわの際に見せた優しげな微笑だ。
その時、お絹の袂から紅い鈴が転がり落ちた。今は吉之助の形見となってしまった鈴、お絹の生命を守ってくれた鈴でもある。
鈴はころころと地面を転がる。お絹はそっと拾い上げ、鈴を振った。紅い鈴は澄んだ音を立てる。
早朝のしじまにチリチリとその音色が響き、溶けていく。お絹には、その浄らかな鈴の音(ね)が亡き人への弔いの音にも聞こえた。
蓮の香や水をはなるる茎二寸 蕪村
【第二話 鈴の音 了】
お絹の眼に新たな涙が湧いた。
蓮の花の鮮やかさが眼に眩しい。濁り切った池の中から何故、蓮はこのように浄らかな花を咲かせるのだろう。
吉之助の微笑がふと紅い蓮の花に重なった。あの酷薄な笑いではなく、いまわの際に見せた優しげな微笑だ。
その時、お絹の袂から紅い鈴が転がり落ちた。今は吉之助の形見となってしまった鈴、お絹の生命を守ってくれた鈴でもある。
鈴はころころと地面を転がる。お絹はそっと拾い上げ、鈴を振った。紅い鈴は澄んだ音を立てる。
早朝のしじまにチリチリとその音色が響き、溶けていく。お絹には、その浄らかな鈴の音(ね)が亡き人への弔いの音にも聞こえた。
蓮の香や水をはなるる茎二寸 蕪村
【第二話 鈴の音 了】