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凍える月~吉之助の恋~
第7章 第三話 【初戀】 一
 冨松はお彩を「嬢」と呼ぶ。お彩はまだ漸く生後ひと月を過ぎたばかりで、焼き芋どころか粥を食べることもできない。だが、お絹は冨松の心づくしを有り難く受け取った。
「ありがとう。冨松さん、私が縫ったもので良かったら、綿入れを持ってきましょうか」
 冨松は今、薄いひとえの着物一枚きりだ。この寒さでは老身にはさぞ辛かろうと思えた。お絹は夜間の蕎麦屋を休業する春から夏は仕立て物の内職をして過ごす。縫い物は正直得意ではないけれど、食い扶持を稼ぐためには仕事を選んではいられない。
「おとっつぁんが着ていた綿入れがあるので、良かったら着て貰えたらと思うのだけれど」
 父参次は大柄な男だった。冨松も若い頃は魚の行商をしていたというだけあって、老人にしては身の丈もあるし、肩幅もがっしりとしている。父が使っていた綿入れが丁度合うのではないかと咄嗟に思ったのである。
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