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凍える月~吉之助の恋~
第7章 第三話 【初戀】 一
 奉公に出るのは辛いことだ。それまでは貧しくとも親に守られていた子どもが生まれて初めて世間に出て、誰かに仕えなければならない。耐えがたい想いを我慢することも虐げられることもあるし、殊に新入りの丁稚は朝早くから晩まで使い走りをし、番頭や手代から追い回すように使われる。
 馴れない仕事でヘマをすれば、たちまちにして小言が飛んでくる。特に京屋の主人市兵衛は人使いの荒いことでは知られている。おみのも京屋の内情について人伝(ひとづて)に色々と耳にするらしい。滅多に他人の悪口や愚痴を言わない母親のおみのが一人息子を奉公に出して以来、京屋の主人の厳しさや人使いの荒さを時に零すようになった。そんなところにも、陽太のけして楽ではない奉公生活の一端がかいま見えていた。
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