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凍える月~吉之助の恋~
第7章 第三話 【初戀】 一
 今縫っているのは深川の船問屋の内儀の正月用の晴れ着だった。人妻、母となったとはいえ、まだ十八のお絹である。まだまだ綺麗な着物を着たいだろうに、他人の晴れ着を一生懸命縫っているその姿に、伊八はいじらしさを感じずにはおれない。
 確かに伊八は腕の良い職人だが、今は出来上がった品を定期的に小間物問屋に持っていって、買い取って貰うだけだ。伊八の評判を聞き、わざわざ細工を頼みにくる客がいないわけではなかったが、親方の喜作の名声には遠く及ばない。夫婦二人で身を粉にしても、その稼ぎはたかだか知れていた。
 せめて産後で夜泣き蕎麦屋を休んでいるときは楽をさせてやりたいと伊八は思うのだが、お絹は何かしていないと落ち着かないのだと笑うばかりだ。が、実は、それも半分は家計のためなのだと伊八はよく心得ている。
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