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第1章 【第一話　凍える月～お絹と吉之助～】　一

　伊八は江戸でも随一と呼び声の高い飾り職人喜作のたった一人の弟子だ。偏屈で有名な喜作は弟子を取らぬことでも知られていたが、その親方が唯一、手許に置き、仕込んだのが伊八だった。伊八は親方にすべてを打ち明け、助けを求めた。
　名人と云われる喜作の許には将軍家を初め闇の世界に拘わる者まで実に様々な階層の人間が簪の細工を頼む。ゆえに喜作は闇の世界とも深く拘わっており、蠍の以蔵とも知己であった。親方は吉蔵の居所を探し出し、そのとりなしで吉蔵と精治は五年ぶりに再会することが叶った。吉蔵は兄のために以蔵の一味を抜け、堅気の人間に戻る決意を固めた。
　やがて、兄弟はひっそりと江戸を落ち、川越へと逃れていったのだが、お絹は、喜作が一体どのような手段であの以蔵に話をつけたのかは知らない。