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凍える月~吉之助の恋~
第1章 【第一話 凍える月~お絹と吉之助~】 一
「それは本当なの」
 お絹が訊ねると、男は肩をすくめた。
「だからこそ、親分の腹の虫がおさまらねえのさ。吉蔵がどこぞで野垂れ死んででもいれば、親分もここまではやらなかったんだろうがな」
 男は、さして興味もなさそうに呟いた。
 朝焼けに染まる空が広がる早朝、ひそやかに江戸を旅立っていった精治と吉蔵をお絹も伊八と共に日本橋で見送ったのは、去年の初夏のことだった。
 あれからずっと、お絹なりに二人のその後を気遣っていたが、吉蔵が堅気に戻ったらしいと知り、愁眉を開く想いだった。
 あの折、伊八が言っていた。
―以蔵も川越までは追ってこられないだろうから、江戸を無事出れば、後はひと安心だ。
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