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凍える月~吉之助の恋~
第1章 【第一話 凍える月~お絹と吉之助~】 一
川越まで追わないというのは、吉蔵が下っ端の子分だったから深追いしないということもあるし、伊八に言わせれば、以蔵の縄張りはあくまでも江戸に限られていて、川越にはまたその土地の裏の世界の仕切人がいるらしい。
だからこそ、吉蔵にまんまと逃げられた以蔵の怒りは尚更激しいのだろう。我が身のことも忘れ果て、お絹は精治と吉蔵の無事を知り、安心していた。いつでも自分の身より他人のことばかり案ずる気性のお絹なのだ。
「良かった」と呟くお絹を男は冷めた眼で見ていた。
「馬鹿な女だ」
男は吐き捨てるように言い、背を向けた。
「お前のような人間を見ていると、虫酸が走る。偽善者ぶった人間は大嫌いだ。ま、せいぜい他人より自分の身を心配するんだな」
だからこそ、吉蔵にまんまと逃げられた以蔵の怒りは尚更激しいのだろう。我が身のことも忘れ果て、お絹は精治と吉蔵の無事を知り、安心していた。いつでも自分の身より他人のことばかり案ずる気性のお絹なのだ。
「良かった」と呟くお絹を男は冷めた眼で見ていた。
「馬鹿な女だ」
男は吐き捨てるように言い、背を向けた。
「お前のような人間を見ていると、虫酸が走る。偽善者ぶった人間は大嫌いだ。ま、せいぜい他人より自分の身を心配するんだな」