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凍える月~吉之助の恋~
第8章 第三話 【初戀】 二
その日の昼過ぎ、お絹は父参次が生前使っていた綿入れを木戸番小屋まで持っていった。冨松は嬉しげに礼を言って受け取り、早速羽織って「温けえ」と顔を綻ばせていた。
そんな冨松の顔を見ると、お絹も嬉しくなり、久々に心温まる想いで帰ってきた。途中で無邪気に遊び戯れる長屋の子どもたちとすれ違う。どぶ板を踏みならし、子どもたちは賑やかに歓声を上げながら通り過ぎていった。
ついこの間までは陽太もこの子どもたちの一群の先頭に立って走り回っていたのに、と思うと、また気持ちが沈んでくる。人はいつまでも子どもではいられない。「憂き世」とはよく言ったもので、大人になれば、浮世の哀しみをその身で受け止め、荒波をかいくぐってゆかねばならぬのは世の常ではあるけれど、生きるとは何と哀しいことだろう。
そんな冨松の顔を見ると、お絹も嬉しくなり、久々に心温まる想いで帰ってきた。途中で無邪気に遊び戯れる長屋の子どもたちとすれ違う。どぶ板を踏みならし、子どもたちは賑やかに歓声を上げながら通り過ぎていった。
ついこの間までは陽太もこの子どもたちの一群の先頭に立って走り回っていたのに、と思うと、また気持ちが沈んでくる。人はいつまでも子どもではいられない。「憂き世」とはよく言ったもので、大人になれば、浮世の哀しみをその身で受け止め、荒波をかいくぐってゆかねばならぬのは世の常ではあるけれど、生きるとは何と哀しいことだろう。