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凍える月~吉之助の恋~
第9章 第三話 【初戀】 三
鐘ばかり浅草寺や年の市 吐月
『発句類聚』
歳の市が始まるのと入れ替わるように、十五日頃が江戸三座の芝居舞い納めで、この日以降、市中の遊び場も殆どが休業に入る。道行く人の足もいっそう速まり、気ぜわしさが増してきて、年の瀬が迫ったことを実感させる。
その年初めての歳の市が立った日、京屋の主人市兵衛がわざわざ甚平店を訪ねてきた。
京屋といえば、数代前まで遡れる老舗にして大店である。まさか主の市兵衛その人が町外れの裏店まで出向いてくるとは想像もしておらず、陽太の両親は気の毒なほどあわてふためいて、市兵衛を出迎えた。