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凍える月~吉之助の恋~
第9章 第三話 【初戀】 三
市兵衛は三十七の男盛りである。身の丈のある肩幅もがっしりとした偉丈夫であった。
商人らしい穏やかな物腰に似合わぬ鋭い眼光はやはり、凄腕と称されるやり手の呉服商らしかった。
市兵衛は畳のすり切れた四畳半に通されると、きちんと正座して太吉とおみのに手を付いて今度の不始末を詫びた。市兵衛は、おみのが震える手で出した安物の茶をさも美味そうに飲んだ。
いつも軽口ばかりの太吉も流石に神妙な顔で鎮座し、陽太はその傍らにうつむいて座った。市兵衛はこたびの一件はすべて手代の愼太郎の仕業であったと打ち明けた上で、京屋の親類から咎人を出すわけにもゆかず、陽太には辛い想いをさせてしまったが、すべては腹の内におさめて欲しいと陽太にまで頭を下げた。
商人らしい穏やかな物腰に似合わぬ鋭い眼光はやはり、凄腕と称されるやり手の呉服商らしかった。
市兵衛は畳のすり切れた四畳半に通されると、きちんと正座して太吉とおみのに手を付いて今度の不始末を詫びた。市兵衛は、おみのが震える手で出した安物の茶をさも美味そうに飲んだ。
いつも軽口ばかりの太吉も流石に神妙な顔で鎮座し、陽太はその傍らにうつむいて座った。市兵衛はこたびの一件はすべて手代の愼太郎の仕業であったと打ち明けた上で、京屋の親類から咎人を出すわけにもゆかず、陽太には辛い想いをさせてしまったが、すべては腹の内におさめて欲しいと陽太にまで頭を下げた。