この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
凍える月~吉之助の恋~
第9章 第三話 【初戀】 三
市兵衛の話の間中、陽太はついに一度も顔を上げなかった。市兵衛は半刻余りして帰っていった。太吉とおみのは幾度も市兵衛に頭を下げて見送ったが、陽太はそっぽを向いたままだった。
その日、市兵衛と陽太の両親の間で交わされたのは、陽太が長じた暁には京屋の跡取り―つまり長女のお市の婿として陽太を迎えるという約束だった。市兵衛はかねてから陽太の真面目な働きぶりやその機転を見ていた。
加えて娘の行動の端々―懸命に陽太を庇っていたお市の態度に陽太への淡い思慕が滲み出ていることまで見抜いていたのだ。
それは、あくまでも内々のものではあったけれど、京屋ほどの人物が約束を違えることはあるはずもなく、これで陽太の将来は大店の若旦那と保証されたも同然だった
その日、市兵衛と陽太の両親の間で交わされたのは、陽太が長じた暁には京屋の跡取り―つまり長女のお市の婿として陽太を迎えるという約束だった。市兵衛はかねてから陽太の真面目な働きぶりやその機転を見ていた。
加えて娘の行動の端々―懸命に陽太を庇っていたお市の態度に陽太への淡い思慕が滲み出ていることまで見抜いていたのだ。
それは、あくまでも内々のものではあったけれど、京屋ほどの人物が約束を違えることはあるはずもなく、これで陽太の将来は大店の若旦那と保証されたも同然だった