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凍える月~吉之助の恋~
第9章 第三話 【初戀】 三
市兵衛は陽太を次の京屋の主とすることを念頭において、これ以後は一人前の商人に育てるため教え導いてゆくという。
陽太の気が進まぬなら、今日のところは一人で帰るが、明日には番頭を迎えによこすと言い残し、市兵衛は帰っていった。
嫌がる倅に、彦六とおさんは無理に市兵衛を木戸口まで見送りにやらせた。何しろ、その日暮らしの鋳掛け屋の倅が江戸でも指折りの大店の娘婿にと望まれたのだ。人の好い二人は、もうはや有頂天である。
「良い返事を待っているよ。京屋の未来を私はお前に賭けてみようと決めたのだからね」
市兵衛は、お市によく似た眼許を細め、うつむく陽太の肩を叩いた。その物言いには、よもや陽太が自分の申し出を断るとは想像もしておらぬ様子が見える。鷹揚な物腰の中に、優位に立つ者の傲岸さがほの見えた。
陽太の気が進まぬなら、今日のところは一人で帰るが、明日には番頭を迎えによこすと言い残し、市兵衛は帰っていった。
嫌がる倅に、彦六とおさんは無理に市兵衛を木戸口まで見送りにやらせた。何しろ、その日暮らしの鋳掛け屋の倅が江戸でも指折りの大店の娘婿にと望まれたのだ。人の好い二人は、もうはや有頂天である。
「良い返事を待っているよ。京屋の未来を私はお前に賭けてみようと決めたのだからね」
市兵衛は、お市によく似た眼許を細め、うつむく陽太の肩を叩いた。その物言いには、よもや陽太が自分の申し出を断るとは想像もしておらぬ様子が見える。鷹揚な物腰の中に、優位に立つ者の傲岸さがほの見えた。