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凍える月~吉之助の恋~
第9章 第三話 【初戀】 三
 が、市兵衛もやはり番頭と同様に、所詮、氏素性を通してしか陽太を見てはいなかった。ちゃんとした詮議もせずに泥棒扱いされ、陽太の小さな自尊心は無残にうち砕かれた。市兵衛への尊敬は失望に変わった。
 叶うことなら、そんな奉公先に戻りたくはない。だが、これは他ならぬ自分が選んだ道だ。もう後戻りはできない。ここで今、奉公を止めたら、自ら負けを認めることになる。やはり自分に後ろ暗いところがあったからこそ途中で辞めたのだと誰もが皆思うに相違ない。
 負け犬にだけはなりたくないと陽太は思った。いつか必ず惚れた女にふさわしい一人前の男になるのだ。いっぱしの商人になって、ここに戻ってくるのだ―、陽太の瞳に決意が宿っていた。
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