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凍える月~吉之助の恋~
第9章 第三話 【初戀】 三
 手を伸ばせば届きそうなほど近くにいるお絹の身体からは、微かに良い香りが漂ってくる。お絹の匂いがこんな花のような香りだとどうして今頃になって気付いたのだろう。
 この笑顔をずっと傍で見ていたいと願い始めたのは、一体いつの頃からだっただろう。陽太はいくら思い出そうとしても、思い出せなかった。
 お絹に京屋の娘婿に望まれているとは、どうしても言えなかった。つい先刻まで、お絹と自分の間の距離はほんの短いものだった。なのに、今、お絹は陽太からはあまりに遠い。
 いや、お絹は既に他人の女房なのだ。亭主との間に赤ン坊まで生まれている。
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