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凍える月~吉之助の恋~
第10章 第四話 【はまなすの子守唄】 一
「お早うございます」
ふと背後から声をかけられ、振り向く。同じ甚平店に住む岩倉拓馬の妻里絵が佇んでいた。お絹は江戸の町外れの通称甚平店と呼ばれる裏店に良人の伊八と娘のお彩と共に住んでいる。甚平店というのは、要するに江戸のどこにでも見かけるような粗末な棟割り長屋であった。岩倉拓馬というのはお絹の斜向かいに住む浪人者で、元は河北藩五万石の藩士であったが、様々な事情があり、里絵を離縁して浪人となった。
が、里絵は十年経っても拓馬を忘れず、はるばる一人で江戸まで出てきた。一度は里絵に背を向けた拓馬であったが、里絵の一途な心に打たれ、再び夫婦としてこの甚平店で暮らすようになったのである。拓馬は相変わらず長屋の連中から「先生」と呼ばれて親しまれ、子どもたちを集めては読み書きを教えている。
ふと背後から声をかけられ、振り向く。同じ甚平店に住む岩倉拓馬の妻里絵が佇んでいた。お絹は江戸の町外れの通称甚平店と呼ばれる裏店に良人の伊八と娘のお彩と共に住んでいる。甚平店というのは、要するに江戸のどこにでも見かけるような粗末な棟割り長屋であった。岩倉拓馬というのはお絹の斜向かいに住む浪人者で、元は河北藩五万石の藩士であったが、様々な事情があり、里絵を離縁して浪人となった。
が、里絵は十年経っても拓馬を忘れず、はるばる一人で江戸まで出てきた。一度は里絵に背を向けた拓馬であったが、里絵の一途な心に打たれ、再び夫婦としてこの甚平店で暮らすようになったのである。拓馬は相変わらず長屋の連中から「先生」と呼ばれて親しまれ、子どもたちを集めては読み書きを教えている。