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凍える月~吉之助の恋~
第10章 第四話 【はまなすの子守唄】 一
「今年は早くから暑くなりましたね」
里絵が微笑んで言うと、お絹は頷いた。
「本当に、今からこの暑さでは先が思いやられます」
お絹と里絵はよく言葉を交わす。里絵はお絹の母親ほどの歳だが、上品な笑顔に優しい人柄が滲み出ているような女性であった。四つで母を喪ったお絹は、何とはなしに里絵の笑顔に母を重ねて見てしまう。実際、お絹には母の記憶というものが殆どないのだ。
自分に母親との想い出がないせいもあってか、お絹は娘のお彩との時間をできるだけ多く持つようにしていた。お絹は夜泣き蕎麦屋を生業(なりわい)としている。良人の伊八は腕の良い飾り職人だが、稼ぎはまだまだ知れている。二人で懸命に働いても、親子三人が暮らしていくのがやっとの稼ぎであった。
里絵が微笑んで言うと、お絹は頷いた。
「本当に、今からこの暑さでは先が思いやられます」
お絹と里絵はよく言葉を交わす。里絵はお絹の母親ほどの歳だが、上品な笑顔に優しい人柄が滲み出ているような女性であった。四つで母を喪ったお絹は、何とはなしに里絵の笑顔に母を重ねて見てしまう。実際、お絹には母の記憶というものが殆どないのだ。
自分に母親との想い出がないせいもあってか、お絹は娘のお彩との時間をできるだけ多く持つようにしていた。お絹は夜泣き蕎麦屋を生業(なりわい)としている。良人の伊八は腕の良い飾り職人だが、稼ぎはまだまだ知れている。二人で懸命に働いても、親子三人が暮らしていくのがやっとの稼ぎであった。