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凍える月~吉之助の恋~
第10章 第四話  【はまなすの子守唄】 一
 昼前になって漸く眠った。その隙を見計らって急いで洗濯に出てきたのだ。泣き疲れて眠っている顔はいつまで見ていても見飽きないほどだが、それでは仕事にならない。
「お彩ちゃんは寝ましたか」
 里絵が問うと、お絹は肩をすくめた。
「済みません。大きな声でずっと泣いてばかりいたので、ご迷惑だったんじゃないですか」
 里絵には子がいない。斜向かいとはいえ、狭い長屋のことだ。あれだけ大声で泣けば、里絵の住まいにまで響いたに相違ない。
「いいえ、こう暑くては赤ン坊でもたまったものではありませんよ。赤子は泣くのが仕事とも言います。気にしないで」
 里絵は笑顔で言った。芙蓉の花のような笑顔はずっと変わらない。里絵は拓馬を追って遠い河北藩から江戸までたった一人出てきた。
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