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凍える月~吉之助の恋~
第10章 第四話 【はまなすの子守唄】 一
薄暗い部屋の中でお絹と伊八の視線が絡み合った。
「あの子は俺の子だ。他の誰もねえ、正真正銘の俺とお前の子なんだ。頼むから、二度と俺の前でそんなことを言おうとはしねえでくれ」
―あの子はお前さんの子じゃあないのに。
その台詞は言葉になることはなかった。お絹は、伊八の顔を切なく見つめた。その表情は、たった一晩で十年も老け込んだようにさえ見える。もしかしたら、伊八は実の、腹を痛めて産んだ母親である自分よりもお彩を案じているやもしれない―と、お絹は思った。自分の実の子でもないお彩を心底から愛おしむ伊八の姿に、お絹は平素からどれほど手を合わせているか知れない。
「あの子は俺の子だ。他の誰もねえ、正真正銘の俺とお前の子なんだ。頼むから、二度と俺の前でそんなことを言おうとはしねえでくれ」
―あの子はお前さんの子じゃあないのに。
その台詞は言葉になることはなかった。お絹は、伊八の顔を切なく見つめた。その表情は、たった一晩で十年も老け込んだようにさえ見える。もしかしたら、伊八は実の、腹を痛めて産んだ母親である自分よりもお彩を案じているやもしれない―と、お絹は思った。自分の実の子でもないお彩を心底から愛おしむ伊八の姿に、お絹は平素からどれほど手を合わせているか知れない。