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凍える月~吉之助の恋~
第10章 第四話 【はまなすの子守唄】 一
「お彩ちゃんが丁度連れ去られたんじゃないかっていう頃、うちの人が見かけないお人を見たって言うんです」
「見かけない人―」
お絹は茫然と呟いた。その時折しも拓馬は手習いの子どもたちを送り出した直後だった。外に出て三々五々に散ってゆく子どもたちを見送っていたのだ。拓馬の開く寺子屋には長屋以外の家からも通ってくる子がいる。そんな子をついでに木戸口まで送っていった帰り道、家の前で向こうから歩いてきた女とすれ違ったというのである。
「そのときは別段深くも考えもせず、お絹さんの家に来たお客人だと思っていたようなのですが、後から、それにしても妙だとふと思い出したそうです。考えれば考えるほど、その人はどうもお絹さんの家から出てきたとしか思えないと言うのです」
「見かけない人―」
お絹は茫然と呟いた。その時折しも拓馬は手習いの子どもたちを送り出した直後だった。外に出て三々五々に散ってゆく子どもたちを見送っていたのだ。拓馬の開く寺子屋には長屋以外の家からも通ってくる子がいる。そんな子をついでに木戸口まで送っていった帰り道、家の前で向こうから歩いてきた女とすれ違ったというのである。
「そのときは別段深くも考えもせず、お絹さんの家に来たお客人だと思っていたようなのですが、後から、それにしても妙だとふと思い出したそうです。考えれば考えるほど、その人はどうもお絹さんの家から出てきたとしか思えないと言うのです」