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凍える月~吉之助の恋~
第10章 第四話  【はまなすの子守唄】 一
「誰か私たちに恨みを持つ人の仕業でしょうか。誰かが私たちを憎んでて、それでお彩をさらったんでしょうか」
 そうとでも思わなければ、合点がゆかない。金目当ての誘拐でもないのならば、恨みや憎しみを抱く者の復讐―、または子ども欲しさの者の犯行。
 お絹は考えていると、本当に気が狂いそうだった。と、伊八が真顔で首を振った。
「馬鹿なことを言うんじゃねえ。そりゃあ、人間生きていれば、自分の知らねえ中(うち)に他人様の恨み辛みを買うってこともあり得ねえ話じゃねえ。だが、俺もお前もたった一人の子どもを奪われほどの酷(ひで)え憎しみを持たれるはずもねえだろう。俺は―もし岩倉の先生の話が本当なら、子ども欲しさにその女がお彩をさらったと考える方がまだしも妥当だと思うがな」
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