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凍える月~吉之助の恋~
第10章 第四話  【はまなすの子守唄】 一
 留七によれば、お縞は北国の玄武藩の出身だった。玄武藩は三万石の小藩で領民の暮らしも貧しい。お縞は八つの時、両親に連れられて玄武から江戸に出てきた。長じて縄暖簾で働き始め、そこで客の一人であった留七と出逢ったのである。
 江戸に出てきてほどなく、お縞の母親は赤ン坊を産んだ。だが、当時はまだ江戸に出てきたばかりの両親はその日暮らしてゆくのがやっとという有り様で、到底二人の子どもを養うゆとりはなかった。両親はやむなく赤ん坊を町外れの本源寺の門前に捨てた。赤子を捨てる時、母親は子どもをくるんだ寝んねこに守り札をつけ、「きちのすけ ねのとしのうまれ」(吉之助 子之歳の生まれ)とたどたどしい仮名文字で書き付けていたという。
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