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凍える月~吉之助の恋~
第10章 第四話  【はまなすの子守唄】 一
 それが弟の身の上を知るたった一つの手懸かりとなるはずだった。月日は流れ、生まれてすぐに生き別れになった弟のこともお縞の記憶の底に沈もうとしていた。そう、あの日、奇しくもその弟と再会することがなければ、お縞の中から吉之助の存在は永遠に喪われていたはずだった。
 だが、運命は皮肉だった。お縞が働いていた縄暖簾に吉之助がふと顔を出したことが、この幸薄い姉弟の運命を変えた。吉之助は時たま思い出したようにふらりと店を訪れ、お縞を相手に酒を呑んだ。吉之助は、お縞の作った突き出しを肴に少量の酒を時間をかけてゆっくりと呑むのが常だった。
 お縞もまた吉之助のことが何故か心に残った。それは男女の色恋とかいうわけではなかった。
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