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凍える月~吉之助の恋~
第10章 第四話 【はまなすの子守唄】 一
恋情なぞはるかに越えた、もっと別の魂の奥底から響き合うような不思議な懐かしさがあった。後から思えば、それがはるか昔に生き別れになった姉と弟の縁(えにし)の絆であったのだろう。
吉之助は店に通ってくる中(うち)にポツリポツリと自分の身の上話を始めた。そして、ある日、お縞は図らずも吉之助が二十四年前に生まれてすぐに離れ離れになった弟だと知ったのだ。その時、お縞は亭主であった留七に語った。
「あいつは言ってた。やっと弟にめぐり逢えたと。もう逢うことなんてないと思っていたのに、これも神仏のお導きだと歓んでたよ。信心なんぞろくにしたこともないのに、あのときはよほど嬉しかったんだろうな」
留七は昔を思い出すような口調で言った。その物言いには、留七が今もけしてお縞を憎んではおらぬことを何より物語っている。
吉之助は店に通ってくる中(うち)にポツリポツリと自分の身の上話を始めた。そして、ある日、お縞は図らずも吉之助が二十四年前に生まれてすぐに離れ離れになった弟だと知ったのだ。その時、お縞は亭主であった留七に語った。
「あいつは言ってた。やっと弟にめぐり逢えたと。もう逢うことなんてないと思っていたのに、これも神仏のお導きだと歓んでたよ。信心なんぞろくにしたこともないのに、あのときはよほど嬉しかったんだろうな」
留七は昔を思い出すような口調で言った。その物言いには、留七が今もけしてお縞を憎んではおらぬことを何より物語っている。