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凍える月~吉之助の恋~
第10章 第四話  【はまなすの子守唄】 一
 姉弟の名乗りなぞ出来ずとも良い。自分はただ弟が幸せであれば、それで良いともお縞は言っていた。陰ながら吉之助の幸せを見守ることができれば良いのだとお縞は考えていたのだ。その言葉どおり、お縞は吉之助に自分が姉であることを告げなかったけれど、吉之助は薄々お縞の素性を察していたように思えた。しかし、吉之助もまた最後までお縞を「姉さん」とは呼ばず、彼が真にお縞を姉だと悟っていたのかは謎のままだ。
 お縞には懸念があった。吉之助は闇の世界に足を踏み入れていたのである。吉之助を拾い育てたのは、闇の世界の大元締めと呼ばれる以蔵という札付きの悪だった。
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