この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
凍える月~吉之助の恋~
第10章 第四話 【はまなすの子守唄】 一
お絹がただ幸せであってくれれば良い―、惚れた女の幸福を一途に願い身を退いた吉之助は、お絹の失踪を訝しんだ。お絹と伊八は相惚れの仲であったはずだ。漸く晴れて夫婦(めおと)となったのに、どうしてお絹が家を出たのか。疑問に思った伊八はお絹の行方を探し、ついにその居所を突き止めた。お絹は江戸近郊の鄙びた小さな農村に隠れ住んでいた。その時初めて吉之助はお絹が身籠もっていることを知ったのだ。
吉之助は初めてお絹を抱いた時、お絹が生娘であったことを誰よりもよく知っている。吉之助は愕然とした。すべてを考え合わせれば、お絹の胎内の子は吉之助の種に相違なかった。吉之助はお絹の身体を奪っただけでなく、すべての幸せを彼女から取り上げたのだ。お絹が他の男の子を宿したことを伊八に申し訳ないと思って、姿を消したのは間違いなかった。
吉之助は初めてお絹を抱いた時、お絹が生娘であったことを誰よりもよく知っている。吉之助は愕然とした。すべてを考え合わせれば、お絹の胎内の子は吉之助の種に相違なかった。吉之助はお絹の身体を奪っただけでなく、すべての幸せを彼女から取り上げたのだ。お絹が他の男の子を宿したことを伊八に申し訳ないと思って、姿を消したのは間違いなかった。