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凍える月~吉之助の恋~
第2章 第一話 【凍える月~吉之助の恋~】 二
「俺はこれまでこんな風に生きてきた。情け知らずの蠍と呼ばれた男に生命を拾われて、ここまで生きのびたのさ。親分にとっちゃあ俺はいつでも取りかえのきく捨て駒だが、俺にとっては生命の恩人なんだ」
「生命の恩人だからと言って、自分の気持ちを見ないふりをして、言うなりになるの?」
 お絹の言葉に、男が叫んだ。
「煩(うるせ)ぇ! お前のような女とは所詮住む世界が違うんだ」
 男は口の端を引き上げた。まるで背筋が凍るかのような酷薄な笑みが浮かんでいる。男が手を叩くと、ほどなく引き戸が外から音もなく開いた。誰かが運んできたらしく、小さな丸盆の上に徳利と盃が二つのっていた。男は盆を引き寄せ、徳利を取り上げると、二つの盃に並々と酒を注いだ。
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