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凍える月~吉之助の恋~
第2章 第一話 【凍える月~吉之助の恋~】 二
 喜作に簪を注文する中には大っぴらにできない客もいる。何しろ、喜作は時の公方様が姫君のためにと簪の細工を頼んでくるほどの名人なのだ。将軍様の注文だって、公にはされてはおらず、あくまでも隠密裡のものである。その他にも非公式に喜作に細工を頼み込む貴人は数知れない。
 まさか裏の世界とのつなぎ役―、伊八にそんな裏の顔が存在したとは、お絹は想像だにしなかった。
「伊八がどうなっても良いのか?」
 唐突に言われ、物想いに耽っていたお絹は我に返った。眼の先に、吉之助が迫っていた。
「伊八っつぁんは何も悪いことはしてないわ」
 お絹は吉之助から顔を背けながら言う。
「ホウ、伊八自身は何も犯罪には手を染めちゃいねえから、お縄にはならねえと? 裏の世界とのつなぎ役を務めること自体が立派な罪だろうが」
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