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凍える月~吉之助の恋~
第12章 第五話 【雪うさぎ】 壱
 お絹は今年十九、もうすぐ年が変われば、二十歳になる。夜鳴き蕎麦屋をやっていて、か弱い女の身ながら、屋台を楽々と引く。華奢で儚げな風情のお絹だが、実は大の男も顔負けの腕力を持つ。お絹が亡き父参次の跡を継いで屋台を引き始めたばかりの時分、若い娘と侮って絡んできた酔っ払いがいた。が、逆にお絹に投げ飛ばされ、這々の体で逃げ去った。
 お絹の良人伊八は腕の良い飾り職人で、江戸では随一と呼び声の高い喜作親方の愛弟子だ。喜作は時の公方様からも注文を受けるほどの腕を持つが、頑固で偏屈なことでは有名で、弟子を取らないことでも知られていた。その親方がどういうわけか、伊八を気に入り、伊八が子どもの頃から住み込み弟子とした。伊八は今では独立しているが、時々は喜作の家に赴き、その身の回りの世話をしている。
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