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凍える月~吉之助の恋~
第12章 第五話 【雪うさぎ】 壱
伊八とお絹は去年の桜の季節に所帯を持った。秋には長女のお彩(さい)が誕生し、その日暮らしながら親子三人が肩を寄せ合って幸せに暮らしている。伊八はお彩を掌中の玉と愛でているが、実は、お彩は伊八の種ではない。
その出生には複雑な事情があるのだ。お彩の実の父親は、もうこの世にはいない。二年前の夏、お絹は夜鳴き蕎麦屋の常連である風鈴売りの精治(せいじ)から弟探しを頼まれた。精治は地味な商人(あきんど)の暮らしを嫌って家を飛び出した弟を探しに、はるばる川越から江戸に出てきたのだった。
精治の弟の名は吉蔵(きちぞ゜う)といった。これは到底我が身一人の手には負えぬと思ったお絹は伊八に相談し、更に伊八は親方の喜作に事の次第を打ち明けた。喜作は闇の世界の住人からも簪(かんざし)の細工を頼まれることから、その世界―江戸の裏稼業の人間とも拘わりがある。
その出生には複雑な事情があるのだ。お彩の実の父親は、もうこの世にはいない。二年前の夏、お絹は夜鳴き蕎麦屋の常連である風鈴売りの精治(せいじ)から弟探しを頼まれた。精治は地味な商人(あきんど)の暮らしを嫌って家を飛び出した弟を探しに、はるばる川越から江戸に出てきたのだった。
精治の弟の名は吉蔵(きちぞ゜う)といった。これは到底我が身一人の手には負えぬと思ったお絹は伊八に相談し、更に伊八は親方の喜作に事の次第を打ち明けた。喜作は闇の世界の住人からも簪(かんざし)の細工を頼まれることから、その世界―江戸の裏稼業の人間とも拘わりがある。