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凍える月~吉之助の恋~
第12章 第五話 【雪うさぎ】 壱
 お絹の父参次が亡くなったのは六年前のことになる。死因は質(たち)の悪い風邪であった。冬になると、江戸には、このような風邪が大流行し、大勢の罪なき人々の生命を奪った。犠牲となるのは体力のない老人や子どもが多かった。参次は四十の働き盛りで病気知らずであったが、その油断が逆に生命取りになってしまった。たかが風邪と甘く見て、医者にも行かぬ中(うち)に手遅れとなり、寝付いて数日で呆気なく亡くなった。
 伊八は、お絹の父と面識はないけれど、彼女からその話を幾度となく聞いている。ゆえに、お彩が風邪を引いたのではと伊八が騒ぐのは無理もないところもあるのだ。
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