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凍える月~吉之助の恋~
第12章 第五話 【雪うさぎ】 壱
お絹は数年前から、日記のようなものをつけている。日記といっても、日々の出来事を書き記すだけでなく、夜泣き蕎麦を食べにくる客たちとの他愛ないやりとりなどを初めとし、様々な人間模様が綴られている。当時、町人―しかも女子は読み書きのできる者は少なかったのだが、お絹は、同じ裏店に住む浪人に幼いときから教わっていた。
この男は長屋の住人から〝先生〟と呼ばれ親しまれていて、特に子どもに人気があった。よくよく見れば苦み走ったなかなかの男前なのに、髪はぼさぼさで、うっすらと無精ひげを生やしているのはいつものことである。それゆえ、どことはなしに胡散(うさん)臭い印象があった。
一体、この〟先生〝が何者なのかは誰も知らない。
この男は長屋の住人から〝先生〟と呼ばれ親しまれていて、特に子どもに人気があった。よくよく見れば苦み走ったなかなかの男前なのに、髪はぼさぼさで、うっすらと無精ひげを生やしているのはいつものことである。それゆえ、どことはなしに胡散(うさん)臭い印象があった。
一体、この〟先生〝が何者なのかは誰も知らない。