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凍える月~吉之助の恋~
第12章 第五話 【雪うさぎ】 壱
 とはいえ、その日暮らしの住人には〝先生〟に支払える束脩もない。その代わり、女房連中が交代で〝先生〟の面倒を見ていた。何しろ、〝先生〟は放っておけば数日間でも平気で飲まず食わず、身なりも薄汚れたままの着たきり雀である。長屋の女たちは、〝先生〟の住まいにその日の夕飯の惣菜のお裾分けを運んだり、三日に一度の割合で掃除に行っていた。
 〝先生〟がこの長屋に来たのは、もう十年近くも昔のことになる。当時、お絹はまだ十歳の少女にすぎなかった。父参次より二つ年長の〝先生〟は、お絹にとっては父親のようなものであり、お絹自身、他の子どもたちのように〝先生〟を慕った。
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