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凍える月~吉之助の恋~
第12章 第五話 【雪うさぎ】 壱
降りしきる雪の中、〝先生〟が立っていた。〝先生〟に向かい合うような形で、少し離れた場所に女性が佇んでいる。四十をやや過ぎたほどの歳であろうか、雪のせいでしかとは判じ得ぬが、芙蓉の花を彷彿とさせるような、しっとりと落ち着いた女性であった。
「あなた、何故、そのようなことを仰せになられるのでございますか? 私はあなたの妻にございます」
女が懸命に言うと、〝先生〟は首を振った。
「わしは九年前、そちを離縁して郷里(くに)を出てきた。わしには最早、妻も係累もない」
「あなた―!!」
冷たく背を向けた〝先生〟に縋ろうとした女を先生が追い返そうとする。その弾みで突き飛ばされた形になり、女のか細い身体が後方に飛んでいった。
「あなた、何故、そのようなことを仰せになられるのでございますか? 私はあなたの妻にございます」
女が懸命に言うと、〝先生〟は首を振った。
「わしは九年前、そちを離縁して郷里(くに)を出てきた。わしには最早、妻も係累もない」
「あなた―!!」
冷たく背を向けた〝先生〟に縋ろうとした女を先生が追い返そうとする。その弾みで突き飛ばされた形になり、女のか細い身体が後方に飛んでいった。