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凍える月~吉之助の恋~
第1章 【第一話 凍える月~お絹と吉之助~】 一
 今日も夕刻、冬の短い陽が暮れる時分に住まいの甚平店(じんべいだな)から屋台を引いて出てきた。雪こそ降ってはいなかったけれど、今宵の寒さはまた、格別であった。澄み切った月の光さえ瞬時に凍ってしまうのではないかと思える。
 こんな冷える夜は遅くまで店を開けていても、あまり客が来ないことを、お絹は経験で心得ている。ゆえに、早めに店じまいしようとしたところに、松二たちがやって来た。無下に追い返すわけにもゆかず、大坂に帰って新しい豆腐屋を始めるという松二に餞代わりとして蕎麦をただでふるまった。
 松二たちを相手に、父が健在であった頃の想い出話を懐かしく語り合い、店を漸く閉めたのが既に四ツを大分回った時刻であった。
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