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凍える月~吉之助の恋~
第1章 【第一話 凍える月~お絹と吉之助~】 一
 笑顔で二人を見送り、お絹も屋台を引いて長屋まで帰る道すがら、ふと足を休めて振り仰いだ夜空の月は得も言われぬほど妖しく美しかった。
 松二は地道にためた金を元手に新しい店を開く。いわば、故郷へ晴れて錦を飾るわけだ。大坂には、年老いた両親が首を長くして待っている。松二の懸命に働いていた姿を知るお絹は、松二のこれからの幸せを心から願っていた。
 澄んだ月明かりを投げかける満月をひとしきり眺めた後、再び屋台を引いて歩き出そうとしたその時、ふいに後ろから近付いてくる足音を耳にとらえた。ひたひたと夜の闇の底に響く足音は何か不気味に聞こえる。
 まるで黄泉の国からの使者のような―、じっと耳を傾けていると、このまま自分がどこかに連れ去られてしまうのではないかと俄に不安に陥ってしまう。どこかで犬の遠吠えが遠く聞こえた。
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