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凍える月~吉之助の恋~
第12章 第五話 【雪うさぎ】 壱
 お絹は、唇を噛んで、止むこともない雪を見つめた。
 やはり、先生には深い事情があって浪々の身となり、江戸に出てきたのだ。直接に聞いたわけではないけれど、先刻の女性が先生の奥方であることは間違いがない。笑うと眼尻にうっすらと皺ができ、とても優しそうな女性(ひと)であった。そして、あの女性に向かったときの先生の冷酷ともいえる態度。いつもは優しくて笑顔の似合う男(ひと)が何故、あんな怖ろしい顔をするのだろう。
 お絹は空を振り仰ぐ。鈍色の天(そら)から白い雪の花びらは絶えることなく降りしきる。この分では、明日の朝はかなり積もるに違いないと、お絹は思いながら、我知らず深い溜め息をついた。
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