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凍える月~吉之助の恋~
第12章 第五話 【雪うさぎ】 壱
 伊八は心底気遣わしげな表情である。
 お絹にも伊八の心はよく判る。伊八は、二年前、吉之助に連れ去られたときのことを言っているのだ。あのときも、馴染み客の精治の弟探しを引き受けたばかりに、お絹は大変な目に遭った。陵辱されたときの忌まわしい想い出は今では随分と薄れたが、それでも水底に沈んだ記憶の断片はある時ふと表面にぽっかりと浮かび上がり、お絹は愕然とすることがある。
 例えば、夜半、床を並べて眠る伊八がふとお絹に手を伸ばしてきたときや、お彩の吉之助によく似た整った面差しを見つめるとき―。
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