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凍える月~吉之助の恋~
第13章 第五話 【雪うさぎ】 弐
「いえ、昨日もあの人の言っていたように、正しくはもう妻ではありません。かつて妻であった者です」
先生―岩倉拓馬に妻がいるとは本人の口から聞いたことがある。拓馬にもこの女性にも言葉の端々に北の国の訛りがある。この里絵という女は良人に逢うためにわざわざ北国から江戸まで女の一人旅を続けてきたのだ。
「よろしかったら、先生がお帰りになるまで、うちでお待ちになってはいかがですか」
お絹が言うと、里絵は首を振る。
「先刻も申したように、逢おうと思うて参ったのではありませんから。あなたは?」
と、問われ、お絹は自分が拓馬の寺子屋のかつての生徒であったこと、今も拓馬が〝先生〟と呼ばれ、長屋の人気者であることをかいつまんで話した。じっと話に聞き入っていた里絵は微笑んだ。
先生―岩倉拓馬に妻がいるとは本人の口から聞いたことがある。拓馬にもこの女性にも言葉の端々に北の国の訛りがある。この里絵という女は良人に逢うためにわざわざ北国から江戸まで女の一人旅を続けてきたのだ。
「よろしかったら、先生がお帰りになるまで、うちでお待ちになってはいかがですか」
お絹が言うと、里絵は首を振る。
「先刻も申したように、逢おうと思うて参ったのではありませんから。あなたは?」
と、問われ、お絹は自分が拓馬の寺子屋のかつての生徒であったこと、今も拓馬が〝先生〟と呼ばれ、長屋の人気者であることをかいつまんで話した。じっと話に聞き入っていた里絵は微笑んだ。