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凍える月~吉之助の恋~
第13章 第五話 【雪うさぎ】 弐
「お絹坊、わしが里絵を離別したのも、あれに逢おうとはせぬのも、里絵が憎いからはではない。むしろ、その逆なのだ」
ややあって、拓馬がポツリと呟いた。その言葉に、お絹は息を呑む。突然訪れた静けさが二人を包んだ。沈黙を破ったのは拓馬の方だった。拓馬は遠い眼になって、訥々と語った。
「そなたやこの甚平店の人々も察しているやもしれぬが、わしは他人には言えぬ深い経緯があって、生まれ故郷を捨てた。わしの生まれ育ったのは河北藩五万石の城下、冬には雪で閉ざされるが、水も澄み自然の山々も美しき良きところだ。わしは河北藩もそこに住む人々も心から愛していた。
ややあって、拓馬がポツリと呟いた。その言葉に、お絹は息を呑む。突然訪れた静けさが二人を包んだ。沈黙を破ったのは拓馬の方だった。拓馬は遠い眼になって、訥々と語った。
「そなたやこの甚平店の人々も察しているやもしれぬが、わしは他人には言えぬ深い経緯があって、生まれ故郷を捨てた。わしの生まれ育ったのは河北藩五万石の城下、冬には雪で閉ざされるが、水も澄み自然の山々も美しき良きところだ。わしは河北藩もそこに住む人々も心から愛していた。