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凍える月~吉之助の恋~
第13章 第五話 【雪うさぎ】 弐
だが、わしが三十七の年、藩では革命が起こった。元はと言えば、筆頭家老派と次席家老派の権力争いに端を発した諍いが他を巻き込んで燃え盛る大火となり、河北藩そのものをことごとく焼き尽くそうとしたのだ」
 拓馬は暗い眼になって小さく首を振る。拓馬の話によれば、当時、既に筆頭家老榎木盛綱(えのきもりつな)は次席家老望月頼母(もちづきたのも)の讒言に遭い、失脚、失意の中に非業の死を遂げていた。盛綱はその人柄も温厚、清廉潔白な男で、慕う藩士や領民も多かった。
 一方、望月頼母は賄賂を公然と受領し、飢饉のときでさえ、農民から重い年貢を搾取してはばからなかった。頼母に従うのは皆、甘い汁を吸おうとする同じ穴の狢(むじな)であった。藩主佐伯信頼(さえきのぶより)はまだ二十四歳の若さであった。五歳で藩主の座についた信頼には、とかくの風評があり、癇性で女狂いと囁かれていた。
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