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凍える月~吉之助の恋~
第13章 第五話 【雪うさぎ】 弐
いかに暗君とはいえ、既に二十四歳の信頼はすべてが頼母の思いどおりというわけにはゆかない。頼母は自分の傀儡となり得る飾り物の藩主を欲していたのだ。信頼は短気で、思いどおりにならぬことがあると怒り散らし、手が付けられぬ状態に陥った。頼母はこれを〝気の病〟と称し、信頼を廃するつもりであった。
〝さりながら〟と、拓馬が続けた。
「時の藩主信頼公は見かけどおりの暗愚な殿ではなかった。殿は頼母のあくどさをすべて承知の上で敢えて知らぬ顔をなさっていたのよ。いかにも女色に溺れる様を装いながら、何もかもをお見通しで、頼母の息の根を止める機会を息を潜めて窺われておったのだ。そして、ついにその日はやって来た。頼母が殿を自らの屋敷に招待したのだ」
〝さりながら〟と、拓馬が続けた。
「時の藩主信頼公は見かけどおりの暗愚な殿ではなかった。殿は頼母のあくどさをすべて承知の上で敢えて知らぬ顔をなさっていたのよ。いかにも女色に溺れる様を装いながら、何もかもをお見通しで、頼母の息の根を止める機会を息を潜めて窺われておったのだ。そして、ついにその日はやって来た。頼母が殿を自らの屋敷に招待したのだ」