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凍える月~吉之助の恋~
第13章 第五話 【雪うさぎ】 弐
頼母の屋敷に渡った信頼は、勧められるがままに酒を呑み酔っ払った。そして、頼母を油断させた上で逆に頼母を討ち取った。ここに筆頭家老望月頼母は亡くなり、佐伯家に代々仕えた譜代の重臣望月家は断絶した。信頼の頼母一派への処置は早かった。だが、首謀者の頼母と副領格の勘定吟味役筆頭安田治部承(やすだじぶのしょう)の二人を処罰したにとどめ、他の数名については罪は問わなかった。
拓馬はそこでひとたび話を止め、小さな息を吐いた。
「わしは頼母の腹心であった勘定吟味役安田治部承の配下に勤めていて、かねてから治部承の不正を苦々しく見ていた。畏れ多くも望月頼母はその立場を利用して藩の公金を横領していたのだ。いっそのこと、治部承らの罪を告発しよう、殿に上申しようと思うたが、直訴はご法度、わしだけではなく、妻にも累が及ぶ。それができなかったわしが臆病者とそしりを受けても致し方はない」
拓馬はそこでひとたび話を止め、小さな息を吐いた。
「わしは頼母の腹心であった勘定吟味役安田治部承の配下に勤めていて、かねてから治部承の不正を苦々しく見ていた。畏れ多くも望月頼母はその立場を利用して藩の公金を横領していたのだ。いっそのこと、治部承らの罪を告発しよう、殿に上申しようと思うたが、直訴はご法度、わしだけではなく、妻にも累が及ぶ。それができなかったわしが臆病者とそしりを受けても致し方はない」