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凍える月~吉之助の恋~
第13章 第五話 【雪うさぎ】 弐
いくらお絹が懸命に言っても、拓馬は頑なに首を振る。
「さればこそ、なおのこと里絵に逢うわけにはゆかぬ。河北を出てはや十年、あの事件の記憶も人々の頭からは殆ど消えてはおろう。されど、いつどこで、昔を知る人間に出逢わぬとも限らぬ。江戸にも河北藩の藩邸はあるし、当然ながら、わしの知り合いもおるからの。わしは今更、里絵をわしのつまらぬ義侠心のための巻き添えにはしたくないのだ。判ってくれ、お絹坊。わしたち夫婦のことはもうそっとしておいてはくれぬか」
だが、お絹は負けずに大きな声で返した。
「判りませんよ、私には。そんなこと、端から判りっこなんてありません。先生、少しは奥様のお気持ちも考えて差し上げて下さいな。このことは奧様から先生には話さないで欲しいって言われてたんですけど、私、今朝、先生のお家の前で奥様をお見かけしたんです」
「さればこそ、なおのこと里絵に逢うわけにはゆかぬ。河北を出てはや十年、あの事件の記憶も人々の頭からは殆ど消えてはおろう。されど、いつどこで、昔を知る人間に出逢わぬとも限らぬ。江戸にも河北藩の藩邸はあるし、当然ながら、わしの知り合いもおるからの。わしは今更、里絵をわしのつまらぬ義侠心のための巻き添えにはしたくないのだ。判ってくれ、お絹坊。わしたち夫婦のことはもうそっとしておいてはくれぬか」
だが、お絹は負けずに大きな声で返した。
「判りませんよ、私には。そんなこと、端から判りっこなんてありません。先生、少しは奥様のお気持ちも考えて差し上げて下さいな。このことは奧様から先生には話さないで欲しいって言われてたんですけど、私、今朝、先生のお家の前で奥様をお見かけしたんです」