この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
凍える月~吉之助の恋~
第13章 第五話 【雪うさぎ】 弐
「里絵がここに?」
拓馬は流石に愕きを隠せないようである。
お絹は拓馬を見て頷いた。
「先生は丁度、お散歩にお出かけになる頃でした。奥様にうちでお待ちになってはとお勧めしたら、別に逢いにきたわけではないからと。来るつもりはなかったけれど、気が付いたらこの長屋の前まで来ていたとおっしゃってました。これ以上、みっともないところを先生に見せて、嫌われたくはないのだと仰せでした」
あのときの哀しげな微笑が今も瞼に灼きついている。里絵は今も変わらず拓馬を愛している。そして、恐らくは拓馬も同じように里絵を愛しているに相違ない。だからこそ、二人ともが惹かれ合いながら、今、また、十年前と同様に心を殺して真実を見ようともしないで離れてゆこうとしている。
拓馬は流石に愕きを隠せないようである。
お絹は拓馬を見て頷いた。
「先生は丁度、お散歩にお出かけになる頃でした。奥様にうちでお待ちになってはとお勧めしたら、別に逢いにきたわけではないからと。来るつもりはなかったけれど、気が付いたらこの長屋の前まで来ていたとおっしゃってました。これ以上、みっともないところを先生に見せて、嫌われたくはないのだと仰せでした」
あのときの哀しげな微笑が今も瞼に灼きついている。里絵は今も変わらず拓馬を愛している。そして、恐らくは拓馬も同じように里絵を愛しているに相違ない。だからこそ、二人ともが惹かれ合いながら、今、また、十年前と同様に心を殺して真実を見ようともしないで離れてゆこうとしている。