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凍える月~吉之助の恋~
第14章 第六話 【対岸の恋人】 
 この眼の前に横たわる川を渡れば、喜作の故郷はもうすぐである。幸いにことに、今日は風もなく、いかにも秋らしい長閑な陽差しが川面に降り注ぎ、眩しげに煌めいている。この分では、渡し船を使って、向こう岸まで渡ることは容易だろう。
「親方、お疲れではありませんか」
 気遣うように訊ねると、傍らの喜作のへの字に結んだ口が心なしかわずかに緩んでように見えた。
 それでも、喜作は相変わらず黙りを決め込んでいる。その様子に、お絹は小さく吐息を洩らし、数日前の良人とのやり取りを思い出していた。
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