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凍える月~吉之助の恋~
第14章 第六話 【対岸の恋人】
お絹は江戸の町外れ、甚平店に飾り職人の良人伊八、娘のお彩と三人で暮らしている。伊八はなかなか評判の良い飾り職で、この頃は引退した親方の顧客までが贔屓にしてくれ、稼ぎは随分と良くなった。伊八の師匠というのが他ならぬこの喜作であり、かつては江戸でも名人との呼び声の高い職人であった。だが、名人と呼ばれる職人にはありがちん頑迷さをこの喜作も持ち合わせており、けして弟子は取らぬというのが信条でもあったのだ。
が、どういうわけか、伊八だけは喜作が気に入り、手許において我が子同然に可愛がって、己れの持てる技術はすべて教え込んだのだ。伊八は江戸近在の貧しい農家の倅であり、飲んだくれの親父にはかなり苦労をさせられたらしく、実の父親には愛想を尽かしていた。その分、喜作を実の父のように慕い、尊敬していた。
が、どういうわけか、伊八だけは喜作が気に入り、手許において我が子同然に可愛がって、己れの持てる技術はすべて教え込んだのだ。伊八は江戸近在の貧しい農家の倅であり、飲んだくれの親父にはかなり苦労をさせられたらしく、実の父親には愛想を尽かしていた。その分、喜作を実の父のように慕い、尊敬していた。