この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
凍える月~吉之助の恋~
第14章 第六話 【対岸の恋人】
数日前の夜、屋台を引いて長屋に戻ってきたお絹に伊八が突然言った。
―実はお前に頼みがあるんだ。
いつになく生真面目な顔の良人に、お絹は眼を瞠った。五歳になる娘のお彩は既に床に入り熟睡している。そのお彩の投げだされた小さな腕を布団の中におさめてやりながら、お絹は伊八の顔を真っすぐに見つめた。
―急に改まって頼みだなんて、何なんですか。
所帯を持って既に七年の年月が流れていた。お絹が他の男に犯され身籠もったことを知ってもなお、それまで変わらぬ愛情を注ぎ、生まれたお彩を我が子として慈しむ心優しい男だ。口数は多くはないし気の利いた台詞にもおよそ縁はないけれど、真面目に働き、時には冗談の一つも言おうと努力する朴訥な人柄である。
―実はお前に頼みがあるんだ。
いつになく生真面目な顔の良人に、お絹は眼を瞠った。五歳になる娘のお彩は既に床に入り熟睡している。そのお彩の投げだされた小さな腕を布団の中におさめてやりながら、お絹は伊八の顔を真っすぐに見つめた。
―急に改まって頼みだなんて、何なんですか。
所帯を持って既に七年の年月が流れていた。お絹が他の男に犯され身籠もったことを知ってもなお、それまで変わらぬ愛情を注ぎ、生まれたお彩を我が子として慈しむ心優しい男だ。口数は多くはないし気の利いた台詞にもおよそ縁はないけれど、真面目に働き、時には冗談の一つも言おうと努力する朴訥な人柄である。